スタディツアー「フランスのムスリム移民社会を学ぶ」が、2016年2月9日から22日に実施されました。本事業は、明治学院大学国際学部の浪岡新太郎准教授の計画?指導のもと、浪岡ゼミと本学 (履修学生は応募者より選抜、担当教員は柏崎正憲) との、合同プログラムとして行われました。
本事業の目的は、フランスにおけるムスリムの移民および移民出身者 (移民の親をもつフランス市民) のアクチュアルな状況を学ぶことでした。その背景を理解するために、学生たちは2015年11月より、フランス共和国の近現代史、移民政策、都市問題などにかんする予習ゼミに参加し、予備知識をつけたうえで臨みました。
スタディツアーで訪れたのは、パリ、エクサンプロヴァンス、マルセイユ、リヨンの4都市です。各都市の移民街、郊外の社会住宅 (多くが移民集住地区となっている) でのフィールドワークや、公的施設 (パリ大モスク、パリ移民歴史博物館、マルセイユ欧州?地中海文明博物館、リヨン大モスク、等) の見学にくわえて、さまざまな教育機関 (パリ政治学院、エクサンプロヴァンス政治学院、リヨン近郊のムスリム系の私立学校であるアル?キンディ学校、等) 、市民団体 (宗教?民族コミュニティ間の協調を推進する地域団体「マルセイユ?エスペランス」、「フランス?ムスリム消費者連合」、郊外託児施設「Objectifs Jeunes」等) 、行政機関 (リヨン近郊のサンフォン市庁舎) に訪問し、会談や講演をもちました。一連の調査をつうじて、今日のフランスにおけるマイノリティの社会的排除の実態や、ライシテ (世俗主義または政教分離) における宗教団体の、特にイスラーム系団体の実際の活動状況について、深く学ぶことができました。
とくに2015年1月および11月のパリでのテロ事件以降、日本でも「フランスのムスリム」や「欧州のムスリム」に注目が集まるようになっています。しかし、このスタディツアーで実際に見ることができたものは、日本に伝わってくる部分的な報道から想像されがちな「テロとの戦争」の扇情的なイメージとは、かなり異なるものでした。一方では、ムスリム系市民の社会的な地位向上や、フランス市民としての平等の実現をめざして、市民社会の側からも、行政の側からも、多種多様な取り組みが行われていますが、しかし他方では、ムスリム系を含めた移民?移民出身者への排除は社会に根深く存在し、さらには問題の原因を排除される側に帰すような政治的動向も見られます。このようにフランスの問題を多面的に調査したことにより、21世紀における文化的?宗教的コンフリクトの複雑な様相を捉えていくための視点を学生が身につけたことが、本事業の主要な成果と言えるでしょう。
パリ大モスク。第一次大戦で戦死した植民地のムスリム兵士を称えるため仏政府の資金により建設。マルセイユ中心部の移民街。モスクの入ったビルも見られる。周辺の再開発が進む。
ヴェニシュー市マンゲット地区(リヨン近郊)の社会住宅。

また、長春市動植物園(旧新京動物園)を訪れたうえで、馮英華先生(日本で博士学位取得、現在は長春で研究継続)による講義 《村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』における「新京の動物園」》 を聞き、活発な討論を行いました。
延吉市では、延辺大学にてその後の行動をともにする延辺大学の学生たちと合流し、ともに延辺大学の孫春日教授による講義 《満洲の東北アジア諸民族 文化景観と中、韓、日の対置される歴史談論》 を聞きました。延辺博物館や延吉監獄抗日闘争記念碑の見学も行い、中国朝鮮族の歴史や抗日闘争史について体系的に学習することができました。
また、「満洲国」期に軍事目的等のためにつくられた朝鮮人「集団部落」があった村々をバスの車窓から眺めながら、汪清県にある日本百草溝領事館分館跡にまで足を延ばし、今もそのまま残っている建物と、同じ敷地内にある独立運動家の首が吊るされたという木を見ました。
